HELLO YOSHIWARA 2023 トークレポート #1:[色男とチャイコ]色男& [セレクトショップFOX]小林雅章

〈HELLO YOSHIWARA 〜吉原商店街に出会おう!〜 2023〉の一環として「街歩きツアー」を振り返るトークイベントが開催されました。このレポートでは、A日程の9月24日に行われた街歩きツアーを振り返る2つのトークイベントの模様を、ツアーの内容も交えてお届けします。

吉原商店街の店主である「色男とチャイコ」色男さんと「セレクトショップFOX」小林雅章さんがそれぞれの自由な発想で企画した「街歩きツアー」は、各自が組むアーティストが制作する「店主が主役の作品」制作の起点となります。

同じ街を異なる視点でめぐる今回のツアー。あの頃過ごした日々を思い返しながら、はたまた、いまだからこそ気づける街の魅力を見つけながら。2つのトークを終えてあらためて街を歩く時、そこにはユニークな吉原商店街の姿がありました。

(文:上田桜子 / 編集・写真:吉原中央カルチャーセンター)

 

参加店主とアーティスト

 
 

『自分にとってのリアルは誰かにとってのフィクション』

 街歩きの案内人 色男とチャイコ

"みんな同じように始まる『まいにち』が、ちょっぴり特別になるように、あなたを想い作りました"をコンセプトに、スパイス料理、焼き菓子など思いつくお料理で皆様をおもてなししている。

作品を作るアーティスト Nozomilkywayさん

ボーンマス芸術大学(イギリス)のイラストレーション科卒業。帰国後はフリーランスのイラストレーターとして活動し、ミュージシャンDJ BAKUのアニメーションPV制作、雑誌の挿絵等を手掛ける。その後渡仏し、パリの銅版画のアトリエで2年間銅版画を学ぶ。2022年帰国後もクライアントワークや自主制作を通じて、空想と現実をミックスさせた世界観を展開する。

 
 

『うらろじーズハイ / 風景は平等 / ボロカワとえんとつ』

街歩きの案内人 小林雅章さん

1976年創業のお直しも行う地域密着型セレクトショップ。店主は田宿川をこよなく愛し、日々お店や日常についてSNS動画、音声型SNS、ブログ等で膨大な量の発信活動を行っている。

作品を作るアーティスト 郡司淳史さん

1988年東京生まれ。様々な企業のコンサルティングやブランディング、イベント企画、コミュニティづくりを行う。2016年、お茶プロジェクト『VAISA』立ち上げを機に株式会社心電を創業。代表取締役を務め今に至る。『郡司塾』は「ともかくうごこう」をモットーにしたプラットフォームとして2020年に開始。人の可能性と特殊能力を信じ続ける、自称ポンコツディレクターとして全ての活動に携わる。


大人の階段をのぼっていった “あの頃” を見つけに

色男さんは、昭和から平成へ時代が移りゆく中で、変化してきた吉原をたどる街歩きを企画。まだ中学生だった「1996年」、大人の世界に秘めたる思いを抱きはじめたお年頃だった「2000年」、そして青年時代を過ごした「2005年」、三つのカテゴリーに分けて、色男さんが当時の吉原の思い出話と共に街を練り歩きました。

 
 

「小さい頃、吉原には姉に連れられてよく出かけていました。母の日の贈り物を選びに行ったり、映画を見に行ったり。量り売りのお菓子をたくさん買って、散財しちゃったり。可愛らしい子供時代の思い出です。そうこうしているうちに自分も成長して、当時はヤンキーとかカラーギャングの時代でしたから、学生向けの洋品店でカラーや裏ボタンを買いに行っていましたね。」(色男さん)

スマホも何もない時代。年頃の色男さんが欲しいものを手に入れるために、根も葉もない情報や噂に埋もれながら買い物に走ったのもこの街だったとか。

「鮮明に思い出せるのは、20年前にクローズした『J・MAX』というお店の光景。当時流行のど真ん中だったアイドルの水着のビデオがある、などさまざまな噂が飛び交っていて、中学生の僕は勇気を振り絞ってこの店の門を叩いたんです。でも実際にそんなビデオはなくて、その代わりに当時でいうパーティーグッズが並んでいました。訳もわからず店をあとにしたけれど、今思えばそれらはRUSHやマジックマッシュルーム、現在『脱法ドラッグ』として規制されている品々だったんです。まだ『悪』とされていなかったものがたくさん蔓延っていて、それを純粋な気持ちで知っていった青春時代がありました。」(色男さん)

 

『J・MAX』にいた店員が当時の人気ゲームクリエイターに似ていた、と話す色男さんの横でポップを持つチャイコさん

 

昭和から平成へ移りゆく中で姿を消してしまった吉原の景色を、色男さんは間違いなく目撃していて、その体験がいまの色男さんを作っているようです。

思いがけずファッションヘルスに勧誘されてしまった自動販売機前、オフ会で出会った女性と恋の駆け引きをした細い路地、それはまるで映画のワンシーンのように、いまでも鮮明に思い出すことができますよ。」(色男さん)

吉原商店街のいろんな場所で、大人の階段をのぼる色男さんを見つけながら。同時に、自分達の青春時代とも重ね合わせながら。参加者それぞれが過去に思いを馳せる、賑やかな時間となりました。

さらにツアー参加者からはこんな感想が。

「(富士エリア出身の自分にとって)吉原商店街は “映画館で映画を見に来る場所” という印象が色濃く残っています。この街に店を構えて1年、以前より街のことを知ることができていますが、色男さんのエピソードを通じていっそう、新しくも懐かしさのある吉原商店街を見つけることができました。」(チャイコさん)

昔は、吉原商店街って子どもだけでは来ちゃいけない場所だったんですよね。潤井川を境目にして、雰囲気ががらっと変わる印象でした。今日のツアーで、その理由が少しわかった気がします。」(参加者A)


いろんな顔やコミュニケーションが混在していた

一緒に作品を作ることになったNozomilkywayさんは、どんなことを考えたのでしょうか。

普通の雑貨屋さんとちょっと怪しげなお店が、明確な境界なく混在しているのが面白いなと思いました。いまでも夜になると(昼間は目立たない)パブとか大人向けのお店が営業していて驚くけれど、若き色男さんはこの街二つの顔を純粋な気持ちで受け止めていたんですよね。それってユニークな経験だなって。」(Nozomilkywayさん)

 
 

これに対し色男さんは「昔は生のコミュニケーションが多かったからね」と話します。

「僕が小さい頃の商店街は、お金の使い方を知ったり、大人と話をしたり、ちょっとした社会勉強の場になっていました。この街に生きるいろんな大人が、いろんな局面で自分を大人にしてくれたと思います。混在しているからこそ、生まれたコミュニケーションがあったんじゃないかな」(色男さん)

参加者からは、当時の大手製紙工場の発展により、三交代制で勤務するブルーカラーの人々が癒しを求めて吉原商店街にやってきたことが、「夜の顔」が育った背景なのではないかという意見もありました。

「工場のおかげで、子どもたちが出歩く時間帯から飲み屋さんは営業していて、しかも扉が開けっぱなしだったよね。子どもと大人の接点も多くて、いろんなことを知っていくきっかけになっていたと思います。」(参加者B)

「今思えば、2000年代に突然現れたお店は大体怪しかったよね〜」と色男さんと参加者たちは笑い合いました。怪しいとはわかっていて、未知だけど、なぜか憧れてしまう-色男さんの話を聞きながら、同じように背伸びをしていたあの頃の自分の姿を、この吉原商店街で見つけた参加者も少なくなかったかもしれません。


色男さんが見ていた世界を街に散りばめ、もう一度見つける

Nozomilkywayさんは、街歩きツアー以前に色男さんからの話を参考にしながら描きためていたアイデアスケッチを示しながら、街歩きの経験もふまえ作品化のイメージを語りました。

 
 

「色男さんが見ていた、”子どもの世界”と”大人の世界”とが点在・混在する景色をテーマに何か制作できればと思っています。例えば、【マジックマッシュルームでちょっと病んだたまごっち】【mistio(色男さんの青春を語る上で欠かせない清涼飲料水)の後ろから顔を覗かせる裸の女性】などなど。そういう感じで、ピュアなものの背後や過去に、ちょっと怪しげな空気が見え隠れするものを作れたら面白いなと考えています。」(Nozomilkywayさん)

色男さんは今回の街歩きテーマと紐付けて「まさに、僕のリアルな記憶が、誰かにとってのフィクションとして語られていくんだね」とコメント。

「実際の街中に、色男さんの見ていた景色を忍ばせるのもいいかもしれません。今の吉原商店街の中に、当時の記憶の断片を散りばめてみる。それを、私たちがもう一度見つけていく。商店街は空き店舗が多いですし、そこから色気のある女性が覗いていたりしたら、おもしろいですよね」(Nozomilkywayさん)

話を聞いていたチャイコさんも、その構想に大きく共感したようです。

「なくなったものもあるけれど、さまざまな要素が『点在』『混在』していたことによって育まれた、人との交流の形は今でも残っています。私も吉原にきて、街の人に本当にたくさん助けてもらいましたから。」(チャイコさん)

「昔から、吉原商店街は店主のカラーが際立った店が多い」と補足する色男さん自身、今では店主として、自分の個性を色濃く発信し、人々と交流を深めています。Nozomilkywayさんの作品によって、色男さんはどのようにしてあの頃の自分、あの頃の吉原と出会いなおすか、作品完成に期待大です。

 

3つのキーワードで発見する「好き」ポイント

「セレクトショップFOX」の店主小林さんが企画した街歩きツアーは、まるで童心にかえり街を探検するようなワクワクに溢れた時間となりました。富士市内の他所にご実家があるという小林さん、実は以前はあまりこの街を好きになれなかったのだとか。

「お店は今年で創業46年。小さい頃、両親は仕事が忙しく自分には構ってくれなくて。そういうちょっと嫌な思い出もあってか、吉原の街のことを知ろうとしなかったんですよ。でも少しずつ、好きになれる景色を見つけたり、外の人から街のことを褒めてもらったり、人との交流が増える中で、『あれ、結構この街好きかも』って思えるようになったんです。この街歩きは、僕がそんなふうに『好きかも』って感じた吉原をめぐる内容です。」(小林さん)

街歩きツアーのスタートは、商店街の中にある立体駐車場の入り口。(実は先に街歩きを実施した色男さんが、女の子を口説く最後の砦だと語った場所でもあったため、一部参加者はニヤニヤ。)小林さんはその駐車場の天井の隙間から差し込む光が好きだと語りはじめます。

 
 

「この隙間を見つけた時は『面白い!』ってテンションがあがりました」そう話しながら、小林さんは次々と参加者にとっておきの撮影スポットに案内してくれます。駐車場の屋上へのぼり富士山を眺めたかと思いきや、「裏路地が面白いんですよ」と商店街や連なる家々の屋根を見下ろし、駐車場を降りたら今度は劣化した壁とそれを囲む青々とした木を愛で、傍らの和田川を眺める。

そんなふうに進行する街歩きの中で、小林さんがたびたび指を差したのは『えんとつ』でした。

「今回のテーマにもあるように、僕はこの吉原のボロカワ(=ボロくて、可愛い)なところと、えんとつがいろんな場所から見えるのが好きなんですよ」(小林さん)

 
 

かつて、富士山をうまく撮影できない代わりにこのえんとつを撮影して以来、街のお気に入りのシンボルになったのだそうです。白と赤の縞模様が青空によく映えていますね。

小林さんの目線で散策する吉原の街。参加者も、小林さんがおすすめを教えてはみんなでカメラを構えてプチ撮影会を行い、新鮮な気持ちで街を見直すことができたようです。

「FOXさんのインスタグラムが好きなんです。路地の写真や、ユニークな目線で切り取られる街の景色が面白くて。今回の街歩きツアーで、小林さんがどんなことを考えて街を歩いたり写真を撮ってるのかが知れて嬉しかったです!」(参加者C)

「吉原商店街にはなぜかあまりいいイメージがなかったんですけど、ここに住む街の人の良さを知って、そして実際に街を歩いて見て、その魅力がだんだんわかってきたように感じます。」(参加者D)

 
 

撮影したえんとつの写真を見せ合いながら、それぞれが異なる見方でえんとつを切り取っていたことを実感する参加者たち。「風景は平等」とは、まさにこのことかも知れません。

 

写真的感覚で、日常の中に美しさを見つける

 トークイベントより先行して小林さんと一緒に街を歩いた郡司淳史さんは、小林さんの持つ独特な感性には「写真的感覚がある」と表現しました。

「小林さんは “日常生活の中にいかにして美しさを見つけるか” という感覚がありますよね。写真を撮るようにして街を歩いているんじゃないかな。」(郡司さん)

その背景にやはり「セレクトショップFOX」が強く存在しているのではないかと郡司さんは続けます。

「洋服という日常生活に溶け込む商品を扱っているから、お客さん一人ひとりの日常を大切にする姿勢が小林さんにはあるんじゃないかな。同じ1日はひとつもなくて、そんな日々の中にちょっとした喜びを見つけていくような。」(郡司さん)

 
 

実際、小林さんは街歩きのなかで「季節ごとにこの街の見どころは変わりますよね」とも話していました。「暖かくなって、ここに新緑がもさもさしはじめるのがいい。」「桃の花の色と、赤いえんとつのコントラストが素敵。」そんなふうに小林さんは、吉原商店街に現れる一瞬一瞬の景色をしっかり捉えていました。

「やっぱり、衣服という季節感ある商材を扱うからこその視点なんでしょうか?私たちには同じ景色に見えても、小林さんは花が咲いていたり、緑が成長していたりと、新しい景色を発見している。その街の命を感じ取って歩いているんだと思いましたよ。」(郡司さん)

「うちのお店は流行りのものよりも、お客さんが喜んでくれるものを仕入れようと思っています。いつも頭に思い浮かべてるのは『この服がこの人の日々の生活でどう着られるのかな?』ということ。誰かにとっての日常を考えるのは、僕の癖なのかも。」(小林さん)

幼き小林さんにとっては寂しい印象が強かった吉原商店街でしたが、大人になって家業を引き継いだ小林さんだからこそ、この街を新しい形で受け入れているのでしょうか。

 

小林さんの“偏愛”を、もっと引き出す企画ができたら

ふだんは広告制作分野で企画の仕事などをしている郡司さん。いわゆる「アーティスト」ではない自身だからこそできる「作品」について語ります。

「僕の役割はおそらく、小林さんの世界観や “偏愛” を翻訳してより広く伝えること。僕の印象では、小林さんはずっとご自身が『好きだ』『美しい』と思えるなにかを表現しているんですよね。セレクトショップ運営や、写真を撮ること、SNSの発信活動もそう。その感覚を持つことで、日常に自分なりの価値を再発見することができる。とても大切なことだなと実感しました。小林さんのそんな姿勢や感性を拝借して、それに触れた人たちの “偏愛” も引き出せたらと思います。カレー屋さんでもいいし、ラジオとかをやるのも面白そうですね。」(郡司さん)

対して小林さんは、「この街歩きは誰のためでもなかった」とコメントしました。

「本当に自分の『好き』だけを詰め込んだ企画でした。でもその後ろには、郡司さんが言ってくださったように『自分がなにをみて、どう美しいと感じるのか』を探ってみてほしいという思いがあったのかも知れません。」(小林さん)

小林さんの視点に触れた、郡司さんをはじめ、ツアー参加者のみなさん。きっとこれから歩く日常の景色は、いままでとは違ったように映るに違いありません。ここを起点に、今後吉原商店街でどんなことが起こっていくか楽しみですね。

 
 

編集後記 

「大人の目線で振り返る、子ども時代の吉原」を案内しながら、小さなころから自ずと受け入れていた吉原の街を再確認しにいく色男さん。一方で、昔は吉原の街を魅力的に感じなかったけれど、自ら吉原の魅力を見つけた結果「子どものような目線で歩く、現代の吉原」を案内した小林さん。お二人の対照的な姿勢に触れながら、吉原を2つの視点で捉えることができました。

二人の目線は誰もが持ち合わせているもので、きっと今回のツアー参加者たちも吉原商店街を歩きながら、それぞれが持つ感覚を再確認し、幼少期に思いを馳せたり、いまある景色に美しさを見出すスイッチのようなものが「かちっ」と押されたのではないでしょうか。

「吉原商店街に出会おう」がテーマの〈HELLO YOSHIWARA〉ですが、「吉原商店街」という規模を超えて自分が生きてきた「街」、いま生きている「街」、そしてそれぞれの時代を生きていた自分自身にもう一度出会うきっかけになったように感じました。「地元に帰って、もう一度あの景色を見に行きたいな。」多くの人にそんな気持ちが生まれるイベントとなったはずです。(ライター 上田桜子)

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